飛騨日日新聞

白川村のありのままの日常を

発信するメディア

2020.10.14

村民視点の新しい観光、「人力しんちゃん」と巡る白川郷。


  • どぶろく祭の人力車に憧れて
  • 「人力しんちゃん」と巡る白川郷
  • 村の風景を守り続けたい
白川村が多くの観光客で賑わう週末、晴れた日にだけ村内を巡る1台の人力車。白川村の新しい観光として親しまれている「人力しんちゃん」です。人力車を引くのは白川村で生まれ育ち、今も村で暮らす川田 晋也さん。村民ならではの経験や知識を活かした川田さんの案内で白川郷を巡ると、景色が全く新しいものに見えてきます。人力しんちゃんを体験すると、白川郷の新しい観光のかたちが見えてきました。

どぶろく祭の人力車に憧れて

青空の下、爽やかな笑顔で迎えてくれた「人力しんちゃん」こと、川田 晋也さん。

川田さんは普段は建設業にお勤めで、週末になると笠を被り、腹掛けと股引き法被に身を包んで、観光客を乗せた人力車を引いて荻町の合掌造り集落を案内します。

2018年9月から人力車の活動をスタートしました。

同じ飛騨地方の中でも高山ではよく見かけますが、村では唯一の人力車。

なぜ、白川村でこれまでに誰も経験がない“観光としての人力車”を始めたのでしょうか。

どぶろく祭で人力車に乗って神主が移動する様子

そのきっかけは村の伝統行事である「どぶろく祭」にありました。

白川村では毎年10月に一年の実りに感謝し、家内安全や山里の平和を祈願するどぶろく祭が行われます。

その際に、神主の移動手段として利用するのが“人力車”。

10数年前、川田さんはその光景に魅了され人力車の引き手を志すようになったのです。

憧れとはいえ、体力的にも経済的にもかなりのハードルだということが想像できる人力車。

当時のことを伺うと「今思えば、あの時はすっかり同級生たちにのせられて、気がついたら自分の人力車を買うことになっていましたね。でも、買ってからしばらくはなかなか踏ん切りがつかず、3年間は車庫で眠っていたんです。」と笑いながら振り返ります。

白川村で人力車を引きたいという川田さんの強い想いに加え、同級生の仲間がその想いを後押しして、2年前にようやくその夢が叶ったのです。

人力車は富山の骨董商から購入したものを、ご自身で修繕をして現在の姿に生まれ変わらせました。

「人力しんちゃん」と巡る白川郷

お話を伺ってから、実際に人力車に乗せていただきました。

白川村で唯一の人力車ということで、引き方や人力車に関する知識は全て独学。
動画を見て動作の研究し、友人に試乗してもらうなど、試行錯誤を繰り返して技術を磨きました。

しかし、乗ってみると独学で始めたとは思えないほどの安定感があります。
車よりも振動が少なく、やわらかな日差しとそよ風が眠気を誘ってくるほどの心地よさです。

また、美しい景色を見せるだけで終わらないよう、川田さんは合掌造りの構造やその背景にある文化、歴史の勉強も怠りません。

お客さんのどんな質問に対しても全て丁寧に答えようとすると、1時間足らずの案内では語りきれないといいます。

窓が空いている中央の合掌造りは、なんと5階建! 正面と側面では大きさの印象も違います。
全国的に珍しい合掌造りの寺院「明善寺」。小さい頃は門の2階に上がり遊んでいたと会話が弾みました。

合掌造りを初めて見た人にとって、集落に並ぶ家々は全て同じように見えるかもしれません。

ですが、一軒一軒に家主の思いが存在し、歩んできた歴史も異なります。

ある家は寺院として、ある家は蚕を育て、茅葺き屋根も目を凝らして見ると傾斜や色にも違いがあるのです。

村の風景を守り続けたい

川田さんは集落の風景を守り続けることにも力を注いでいます。
案内の中で、季節によって移りゆく田園や水路、草花の風景も素晴らしさも教えていただきました。

お土産屋さん手作りのかかし。お客さんを楽しませたいという村民のおもてなしの心から生まれました。
お米の収穫を迎え、稲木の風景が広がり秋の訪れを感じられました。

「白川村の良さは、自然が季節ごとに風景を変えていくことなんです。だから、いつお客さんが訪れても期待を裏切らないよう、これからも村の景観を守り続けていきたいです」。

世界遺産として認められた今の風景が保たれているのは、生まれ育った白川村を大切にしたいと強く思う村民の愛があるからこそ。

写真に左の植物が茅葺き屋根の材料となる「茅」の株

「白川村で育てた茅で合掌造り屋根の葺き替えをすることが目標なんです。」

現在、白川村では茅葺合掌造り屋根の葺き替えに県外で育てた茅を使うこともありますが、今後は村で整備する茅場で多くの茅の収穫ができるよう力を入れたいと意気込む川田さん。

小さな村だからこそ、そこで暮らす人々には自分たちの手で村をつくり、守っていくという実感があるのでしょう。

ご友人からのプレゼントである“さるぼぼ人力しんちゃん”もお客さんをお出迎え!

人力車に乗っているとお店の中から、車の中から、自転車に乗りながら…多くの村民が川田さんに手を振る光景を目にしました。

その光景からは、村中が川田さんを応援していることが伝わってきて、人力しんちゃんは人力車を走らせるだけでなく、普段から村民の一人として、村を守っている川田さんだからこそできる新しい白川村の観光のかたちなのだということが感じられました。

人力しんちゃんでは“見るだけ”の観光とは一味違う、村の日常を味わうことができます。

白川村の魅力は豊かな自然だけではなく、伝統や人の繋がりを大切にする“村民自身”が生み出しているのかもしれません。

文・飛騨日日新聞記者/河合ほのか
編集・飛騨日日新聞/杉田映理子

人力しんちゃん

出発地/岐阜県大野郡白川村荻町452番地 土産品店「かたりべ」付近

期間/毎週土、日曜(雨天・豪雪期間は休み)

時間/40分

料金/8,000円(大人2名まで)

トップへもどる

関連記事